広島大学附属幼稚園

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附属幼稚園の門標とモニュメント「ゆうゆう」について

玄関横の壁面にかけてある「広島大学附属幼稚園」という木製の門標

 玄関横の壁面にかけてある「広島大学附属幼稚園」という木製の門標を,ゆっくりとごらんになったことがありますか。門標の板は旧園舎にあったものを,20 年以上もたって文字もほぽ消えかかっていたので削りなおして,新たに書いたものです。実はその時,移転時の園長であった私に書いたらとすすめてくださった方もいましたが,私には密かに思うことがあったのです。  
 それは移転を記念してせっかく門標を新しくするのなら,日本の教育界に通用する書家に揮毫してもらおうと思ったのです。戦前の学校では,全国共通の国定教科書を使っていました。私もそのひとりですが,国民学校(昭和l6年から20年までの小学校)の習字の教科書の字体のすばらしさを,記憶されている方が多いと思います。実はこれを書かれた方は,広島大学とたいへんご縁の深い先生です。

 教育学部の前身である広島高等師範学校に昭和l4年から助教授としておつとめになった井上桂園先生がその方です。先生は国民学校書き方国定教科書を執筆するために文部省に移られ,l9年に教授として復職されています。そして昭和24年から定年で退官される41年まで,教育学部教授としてつとめられ,今度は書き方・習字・書道の検定教科書を執筆,全国の学校で広く使われました。  
 附属幼稚園が移転した頃,先生はすでにご高齢で,歩行もままならぬおからだでしたが,白宅まで門標を抱えて行ってお願いしたところ,快く書いてくださいました。紹介の労をとられた国語関係の教授の話では,「こうした大きな字を書かれるのは最後ではないか」ということでした。ぜひ,末永くだいじにしていただきたいと思います。
モニュメント「ゆうゆう」
モニュメント「ゆうゆう」
 ところで,玄関前の小山の上にあるモニュメントを,じっくりごらんになったことがありますか。汽車と船と雲と波の取り合わせで宮澤賢治の世界みたいだという印象をお持ちになったかもしれません。実はこの制作者は,私が幼稚園長時代に山口大学の附属幼稚園長だった川口政弘教授です。先生は芸術家だけあってたいへんユニークな幼稚園経営をされており,意気投合しあう面が多くありました。モニュメントの計画があるという話をしたところ,私がやりましょうということになったのです。といわれても,こちらはそうたくさんの予算があるわけではありません。なにしろ川口先生は,国際的に通用するいわば大家なのです。 例えば,国内では先生の作品は瀬戸大橋博覧会,現代彫刻展,箱根彫刻の森芸術館大賞展,日本国際美術展など,数しれません。国際的にも世界デサイン博覧会コンペチション入賞,ロッテワールドやホテルロッテ(ソウル)の空間設計など,こちらで準備できる予算では無理と思われました。しかし,広島大学附属幼稚園の教育にいたく賛同された川口先生は,犠牲をかえりみずたびたび来園され,海組と空組というクラスの名称を具象化したような,楽しい作品を作ってくださいました。もちろん,この記念碑が実現するには,広島時代及び移転後の附属幼稚園のPTAと後援会,それに教職員の方々の物心両面にわたるご協力が,背景にあったことを記しておきたいと思います。
 ところで,このモニュメントは「ゆうゆう」と名づけられています。川口先生は別に名前は付けられなかったのですが,芸術作品は見る人がそのイメージを言語化しレッテルを貼ってもかまわないということで,「ゆうゆう」と呼ぶことを了解されました。こうして附属幼稚園の教育理念のキーコンセプトである「ゆうゆう」を,このモニュメントの名称にしたのです。では「ゆうゆう」とはいったい何でしょうか。附属幼稚園PTAの文集第l号に,かつて解説を載せましたので,次に再録しておきたいと思います。
 「ゆうゆう」にはさまざまな意味がある。まずあたまに浮かぶのは,「悠々自適」の悠々であろう。遥かに限りがないという意味で,ゆっくりと落ちついた様子を示し,時間的には暇があることを表している。「優遊」も暇があってのんびりしていることである。さらに,のびやかで,ゆっくりしていて,しとやかで,和らいださまを表すのに「優々」がある。これに奥深さの「幽々」を加えるなら,わたしたちが理想とする幼児教育者像になる。こうした意味を持つ「ゆうゆう」とした態度で,親も子どもに接するなら,子どもたちはもっと幸せになるであろう。
 附属幼稚園は,「融々」とした園,すなわち融和して楽しくのどかなふんい気の園になることを願っている。そのためには,遊びがいちばんだいじである。子どもたちが友だちと遊ぶことを最大の喜びとするような教育こそ,幼児教育である。「ゆうゆう」には,辞書にはないが友と遊ぶ「遊友」の意味も込められている。しかし,いうまでもないことだが,「ゆうゆう」という名まえは,ほんとうは「遊遊」つまり遊びに遊ぶ子どものイメージから生まれたものである。

(元附属幼稚園長  森 楙)

広島大学付属付属幼稚園